チョコレートと片思い 男の子編
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17年生きてきて、自分から恋したのは一度だけ。そんで、上手くいかなかったのも一度だけ。
だからいろんな意味で鳩羽麻衣って女は、記憶に残るやつだった。
小学生の頃は休み時間の度、ドッヂとかバスケとか男子に混じって遊んでて、髪だって短かったしスカート
なんて穿かない気楽な異性で、でもある日、俺の中で女の子にすり替わる。
川を流れてきた子猫を、あいつの代わりに助けてやった俺に泣きながら抱きついてきた、麻衣。
生まれたての頼りない生き物を、愛おしそうに撫でた、麻衣。
はにかんだ笑顔で、ありがとうと言った、麻衣。
全部、女の子だった。男になんて、見えなかった。
妙に男子を意識してウザイ態度をとる他の女子と違って、彼女はサバサバ潔いのに芯は優しくて女の子らしい。
俺を抱きしめた腕は細くて、髪からは良い香りがして、笑顔はヤバイくらい可愛いんだ。
意識しだしたらもう、麻衣のどんな仕草も俺を惹きつける。毎日毎日好きが増えて、もどかしくて叫びたい
くらいで。
そんな恥ずかしい日々を過ごしてた、6年のバレンタイン。麻衣の魅力に気づけない可哀相な男共が、放課後
の教室で面白半分に聞いてきた彼女とチョコレート。
照れてバカなことを言ったのを、まさか本人に聞かれているとは思いもしなかった。おかげでその後の数年を
無駄にするハメになるなんて、想定外もいいところ。
思い出してみれば確かに、麻衣が俺を避けだしたのはあの日からだ。中学でクラスが違ってからは、俺の姿を
見つけるとさり気なく隠れる始末で、話すどころじゃない。
こっちも意地になって絶対声かけねぇって決めてたけど、一部じゃそうも言ってられない事態も持ち上がってた。
「なあ、2組の鳩羽って、よくね?」
「あーなんかキレイだよな、あいつ。さらっさらストレートヘアとか、姿勢良いとことかお嬢っぽくて」
「笑うとさ、それがかわいくなんの。幼くなるってか、ぎゅってしたくなる」
そう、それなりに身なりを整え始めた麻衣は、やたら男の目を引き出したのだ。
かく言う俺の悪友共も、こぞって興味もちやがって面白くない。
「おい、あいつに変なことすんなよ」
聞いてないフリしてたけど、我慢できなくて口出すと、
「はぁ?お前カノジョいんのに、鳩羽のこと狙ってんの?」
「あーあー、そういえば小学校で仲良かったよね、麻衣ちゃんと」
「げ、二股?キチクー」
逆にからかわれる始末で、更に俺の機嫌は降下する。
「違う。カノジョなんかいないって。あれはセフレ。それよりマジ麻衣に構うなよ」
睨むと、一拍おいて爆笑された。
「好きなの?好きなの、廉ちゃん!恋してるのね〜」
「お前、結構一途な。セフレは間違ってるけど、鳩羽には純情君で、なんか泣けるよ」
「わかった。廉が告れるまで生温かく見守ってやるから、安心しな」
代わる代わるこづかれたり撫でられたり、うっとおしくてむかついたけど、こいつ等はきっちり約束守って
くれたから、本気で助かった。
卒業までの1年間、俺が狙ってるって周囲にそれとなく情報流してくれたおかげで、あいつに告白する勇者は
でなかったから。
自慢じゃないが、俺はもてたんだ。顔も良いし、背も高いし、成績も良いし、女共が無駄に騒ぐ要素をたっ
ぷり持ってて、おかげで俺に対抗しようとする男は少なかった。
麻衣の場合も同じように、不戦敗を決め込んでくれた奴らばかりで、そっち方面は安心できた。
高校もどこに行くのか友人共が調べてくれて、一緒のとこに合格できて、やっと同じクラスにもなれた2年の
バレンタイン。
俺の席でチョコを食べてる麻衣に、胸が騒ぐ。
もしかしてって、儚い希望を抱いて戻った教室が、突然ピンクに見えて。
こっちを振り返りもせずに逃げ出したあいつを、絶対逃がさないって思ったね。今日手に入れられなかったら、
この先一生こんなチャンスは巡ってこないって、なんとなくわかったから。
「東條君の質問…?」
なのに、これほど真剣な俺の思いをはぐらかそうとする態度が許せなかった。東條君なんて、聞いたこともない
呼び方を麻衣がするのも、腹立たしい。
じっと睨んで答えを待っていると、クルクルと表情を変えた彼女の視線が、俺から外れる。
それは一瞬で、でも、よく見覚えがある仕草で。
麻衣が嘘つく時は、いつもこうだった。強気に光ってる目が色を無くしてふっと逸れる。すぐにまたこっちを
見るけど、もう遅いんだよ。俺にはばれてるんだ。
「言っとくけど、ちゃんと俺を納得させない限りこの手は離さないからな。明日の朝までかかろうと、お前を
解放してやらない」
だから、警告してやった。白状しなきゃ、自由にはなれないって。
そうやって追いつめて、追いつめて、泣かすまで追いつめて。望んだ答えを貰ったのはいいけれど、実は追いつめられた
のは、俺だ。
ぽろぽろと白い頬を伝う涙に、背筋が震えるほど喜びが溢れる。セーブできなくなった感情が、愛しいって
想いがつい、麻衣を抱きしめさせる。
気付いた時には涙を啜って、キスしてた。触れ合うだけのそれに彼女が体を硬くしたのはわかったけど、なんか
止めらんなくて。
「拒むな。受け入れろ」
命令って、俺どんだけ酷いんだよ。なんて突っ込み入れつつも、だんだん麻衣が大人しくなるのをいいことに
どさくさで謝って、でも。
「うそ」
好きだって言ってんのに信じてくんない彼女に、ちょっとキレちゃったんだよなぁ。
無理矢理唇こじ開けて、押し入って舐め回して。ほんのり甘いチョコに、あーバレンタインだったんだって
実感して。
本気で、そのまま麻衣を味わうつもりだった。あいつが正気にならなきゃ、抱けたのに。
だってさ、こいつ隠れファンが多くてマジ気が抜けないんだよ。内田とか、同じクラスになったのいいことに
必要以上に麻衣に触るし、話かけるし。早く俺のモノにしなきゃ、安心できない。
や、きっとそうなっても心配は減らないんだろうけど、でも、気分の問題でさ。
けど、邪なことばっか考えてる俺と違って、麻衣は純粋で可愛くて。
「付き合ってくれる?」
なんて聞くもんだから、我慢できずにもう一度抱きしめて、深い深いキスをした。
その髪からは、あの日と同じ、甘い甘い香りがして…俺のなけなしの理性は、近い将来必ず飛ぶって確信が
持てたね。
麻衣には迷惑だろうけど、こんな男を好きになったんだ、諦めろよ?
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